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第10回 龍馬のようなトリマーに




このコラムも最終回となりました。今までお読みいただき、ありがとうございました。
繰り返し申し上げていることですが、就活の主体は、あくまで皆さんであり、その就活の進め方や考え方には正解がありません。性格診断をしたからといって、それが導き出す結果は怪しいものですし、ましてやどこのショップに就職するのがよいかなんて誰にも分かりません。すべては自ら考え、求め、開拓してゆくしかありません。
しかしながら、これだけは言えます。ペットに関わる仕事は、その生命に関わるという意味で責任感・倫理観が問われる仕事ですし、ペットたちを通して、「弱者救済」と言う方向へと飼い主様(社会)を導く誇り高い仕事です。とりわけトリマーの役割は、ただお手入れをする、カットをするということに留まらず、飼い主様に“心豊かな暮らし”を提案できる存在であり、これを飛躍して言えば、ペット文化の担い手となる存在です。
ですから、なかなか希望するショップスタッフに採用されなくても、そのことで就活に迷いが生じても、この道を目指した初心自体を諦めないで欲しいと思います。「夢は手を伸ばした1㎜先にある」と誰かが言っていました。1㎜か1cmか1mかは分かりませんが、あなたが夢を諦めない限り、夢のほうからあなたに近いてくるはずです。

3Kと言われて。


ペットショップが“犬屋さん”と呼ばれていた頃からペット業界にいらっしゃる方は、昔は“3K”職業の代表のように見下されたものだと語られます。いわゆるキツイ・キタナイ・クサイです。今はどうでしょうか。もちろん待遇を含めた労働環境の改善は課題ではありますが、ウインドー越しにカットの様子を眺めている少女たちは、美容室で愛犬を抱き上げるお客様は、そんな形容詞を使われるでしょうか。私は同じ3Kでも、『感謝・感動・共感』の3Kだと言いたいのです。
その新3Kの体現者こそがトリマーではないでしょうか。もちろん、技術者としてのカッコよさだけではありません。どれほどロボット工学が発達しても、IT社会になっても、トリミングは、人間の“手”を通して行われるわけですから、確かな技術の根底には、“温もり”があります。そして、それは優しさや思いやりといったワードを連想させます。この技術と人間性が、飼い主様をして、感謝・感動・共感させるのだと私は思います。


3年後のあなたに。


そんな素晴らしい職業を見つけ、就活を経て、プロトリマーの第一歩を踏み出されたあなたは、3年後、どこでどのようなトリマーさんになっているでしょうか。
技術を磨き、さらに究極を目指して努力されているでしょうか、それともこんなはずではなかったと周囲に愚痴をこぼしているでしょうか。それもあなたの人生です。こうすべきだとか、こう生きるべきだとかは、正解がありませんし、誰にも分かりません。周囲に迷惑をかけない範囲であなたが追い求めるべきことです。
ちょっと待ってください。このフレーズは、先にもありましたよね。つまり、現在就活中の皆さんも、トリマーとしてバリバリ仕事をされている皆さんも、多少程度の差はあっても実は、一人のトリマーとして、正解なき道を迷いながらも突き進んでいると言うことです。
正解なき道なんて重たいですよね。ないことは分かっていますが正直答えが欲しいです。そこで、トリマーとして生きることに、迷いや困難に直面したときには、一人で背負うのは大変だから、何か分からない大きな力に突き動かされているということにしませんか。そして、それを天職だと信ずれば、道は開けるような気がしませんか。
ひょっとしたら神様は、あなたの上司や友人が何気なく発する言葉を通して、あるいは言葉を発しない犬たちのオーラを借りて、既にあなたの行く先を暗示しているのかもしれませんよ。神様がくれたヒントに気がつくかどうかは、我々の心根次第です。謙虚な姿勢です。“気づき”と“学び”です。もらい泣きできる優しい感性です。

志と言ったら幕末の志士のようで、現代人には死語なのかも知れませんが、大切なのは、「こうなりたい」から「こうありあたい」と自身の行く先を見据え、決してブレないことではないでしょうか。トリマーになりたいとは誰もが言います。しかし、今あなたに求められているのは、どのようなトリマーになって、どのようなことを成したいのかということです。
坂本龍馬は、「人は事を成すために生まれけり」と言いました。好きで好きでたまらないことをするのは趣味です。好きで好きでたまらなくて、かつ人(世の中)のためになることをするのが仕事です。トリマーとして社会のために何ができるのか、その答えをこれからも求めてください。龍馬のようなトリマーになってください。



著者プロフィール 飯田 一成 kazushige iida
キャリアコンサルタント。1956年生まれ。神奈川県出身。トリミングスクールの就職部長とペット企業の採用担当ディレクターの経験を生かして、動物系専門学校・ペットスクール等の就職セミナー講師、学生募集のコンサルティングを中心に活動中。
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