
「動物病院 &トリミングサロン向け ハッピー経営のための応援ブログ」
投稿日時 : 2026-06-04 10:06:42 (3 ヒット)

1.1年半前のおさらいから
「トリミングサロンの値上げの話」を寄稿したのは2025年1月のことでした。当時からインフレへの備えを提言していましたし、さらには、トリミング業界にますますご繁盛していただくゲームチェンジ案として、数年前から料金改定の提言をして参りましたが、上手にご活用いただけてますでしょうか。
もしもトリマーの離職率が高いのであれば、それはシンプルに「割に合わないから…」「このお給料では生活していけなくて…」ということではないでしょうか。
経営者がたくさんお給料を払いたくても、先立つものが無ければ、無い袖は振れません。なぜ原資が足りないのでしょうか?集客?接遇?技術?オプション提案?もちろんそれらも大切です。その上で、掛け違えたボタンの一個目をよく考えてみましょう。「そもそも、お客様から頂くトリミング料金が安すぎるのではないか?」という件です。この件を思考停止していたら、すべてが滞ります。だからこそ、2025年1月に「トリミングサロンの値上げの話」を老婆心ながら寄稿させていただきました。
2025年1月から1年半。最低賃金、原材料費、水道光熱費は上がり続けています。最低賃金の全国加重平均は2023年の1,004円から、2024年10月には1,055円、2025年10月には1,121円へと、ここ2年ほどで11%以上上昇しました。過去5年間では約24%も上昇しています。また、消費者物価指数(総合)は過去5年間で約13%上昇しています。今後もさらにインフレは加速するでしょう。経営者の皆様の多くが「さすがにもう、料金体系を見直さないと持たない」「この前ちょっと値上げしたけど、再値上げを検討しないとなぁ」と肌で感じておられるのではないでしょうか。
そこで今回は、1年半ぶりにあらためて値上げの話を整理しつつ、「まだ料金改定していない」「改定はしたけど、微々たる値上げだけ…」というトリミングサロンやサロン併設の動物病院の院長先生向けに再寄稿します。
また、異業種の事例や、動物病院向けに別途寄稿した「メリハリのある価格設定」の考え方も一部織り込みました。新たな気付きが得られると幸いです。
2.まずは前提の共有 ― 値上げが「やむを得ない」フェーズに入った
事業を永続させるための要素は、立地、技術力、接遇など多々ありますが、いまの時代にとりわけ重要なのは、料金が相場と比べて適正かどうかです。
ここでいう相場とは、地域の他サロンのトリミング料金の相場ではありません。所要時間に見合ったレバレート(時間単価)の相場のことです。レバレートが業界横断の適正水準で設計されていなければ、トリミングサロンもトリミング部門も、永続させるのは非常に難しい時代に入りました。
ですから、戦略的に料金体系を考え直さなければなりません。しかも、デリケートな課題なので、慎重さが求められます。
3.「必需品」を安易に値上げした業界の末路 ― 自販機の教訓
ここで、業種は違いますが示唆に富むケーススタディを共有します。
かつて100円前後だった清涼飲料水の自販機は、いまや180〜200円が当たり前です。その結果、客離れが起き、自販機の設置台数はピーク時(2013年頃の約267万台)から約18%減少し、2024年末時点では約220万台まで縮小しました。スーパーやドラッグストアのPB品やNBのデッドストック品などが100円前後で買える中、自販機の割高感が敬遠されたのです。
これは、低価格・高頻度で購入される「必需品」の価格設定がいかにデリケートかを物語っています。トリミングに置き換えれば、「日常的なシャンプー」「爪切り・肛門腺といったベーシックケア」がこれに近い性質を持ちます。ここを単純に大幅値上げすると、客離れを招きやすい領域です。
4.「必需品」でも適切に値上げできる例 ― シウマイ弁当と、きのこの山
一方、必需品的なポジションでありながら、上手に価格改定を進めている例もあります。
崎陽軒のシウマイ弁当は、2018年頃860円だったものが、2022年に900円、2023年に950円、2025年2月に1,070円、2026年2月に1,180円と段階的に値上げされてきました。さすがに1日2万個以上売れる看板商品ですから、値上げしても大幅な客離れは起きず、売上は伸びています。ただし崎陽軒の決算を見ると、原材料・人件費の高騰が値上げを上回り、利益は半減。経営者の健気さに同情してしまうと同時に、昨今のコスト圧力の激しさが透けて見えます。
もう一段ギアを上げたベンチマークが、明治の「きのこの山」「たけのこの里」、グリコの「ポッキー」のように、予算が限られ、消費者が買い物慣れし、競合もシビアな商品群です。これらは「容量と価格の同時見直し」を図っています。きのこの山は2000年頃98g(200円)だったものが、近年は66g(265円)まで内容量を絞り込み、価格も調整しました。1gあたりで比較すると2.04円/gから4.02円/gと、実質値上げ率は+97.1%。「ステルス値上げ」と揶揄されかねない手法ですが、予算制約のある必需品においては、十分に評価できる工夫だと考えます。
その企業努力もあって、明治はチョコレート市場のシェア25.3%(2024年度/インテージ社SRI+)を獲得し、営業利益率も上場企業平均の6〜7%を上回る7〜9%台で推移しています。
トリミングの世界に翻訳すれば、これは「サービス内容(量・時間)と価格の組み合わせを再設計する」ことに他なりません。値段だけを動かすのではなく、何を、どのくらいの時間で、いくらで提供するかのセットで見直すということです。
5.トリミングのレバレート、実態はどれほど安いのか
ここから、本題です。
今どきのサービス業のレバレートの目安は、10分あたり1,350〜1,400円程度です。それくらい頂かないと、経営が成り立ちません。
身近な例がQBハウスです。創業当時の1990年代は「10分1,000円」を謳い文句にしていましたが、消費税UPや最低賃金上昇に伴って段階的に値上げされ、2025年2月からは10分1,400円となっています(前回から1か月以内の再来店は1,300円という懐柔策を併用)。このレバレート水準は、リフレクソロジーやリラクゼーションなど、今どきのほとんどのサービス業に概ね当てはまります。
では、トリミングはどうでしょうか。
トイプードル(シャンプー&カット)を例に検証してみます。料金が5,000〜10,000円、所要時間がベテランのオールシザーで120分、新人で180分だとすると、
ベテランが10,000円を頂いた場合:10,000円 ÷ 12 = 833円/10分
新人が5,000円を頂いた場合:5,000円 ÷ 18 = 278円/10分
今どきのサービス業の目安1,400円と比較すると、ベテランで約4割引、新人で約8割引に相当します。トリマーさんが素晴らしい技術と接遇で健気に頑張っても、経営者が4〜8割引の料金設定で経営してしまっていたら、商売として永続させるのは厳しい。毎日が「閉店売り尽くしセール」並みの大安売りです。お客様は喜びますが、お店は経営できません。
しかも、トリミングはお客様の「もっと可愛く」のリクエストに応えるほど、チッピングなどに時間が吸われ、レバレートはさらに低下します。動物にとっても、長時間立ちっぱなしは負担です。よかれと思った頑張りが、自分たちとワンちゃんの首を絞めてしまう構図に、思い当たる節はないでしょうか。
6.ゲームチェンジの設計 ― 客層別の料金バリエーション
ここからが、前回寄稿の中核です。1年半経った今、ますます現場感覚にフィットする話になってきたと感じています。
仮にトイプードルのトリミングを120分で仕上げる前提なら、1,400円×12=16,800円。これが本来の適正料金です。
ただし「家族の一員だから可愛く♡」と言いながら「犬にそこまで出せません!」と掌を返されるのが消費者の常です。そこで、レバレートを意識しつつ、客層に応じて品質と時間をアレンジし、料金表にバリエーションを持たせる。これがゲームチェンジの肝です。
【デラックス料金】16,800円 オールシザーで丁寧に。数週間経ってもザンバラにならない満足度の高い仕上がり。マーケティングのセオリーとして「高嶺の花」を載せる意味でも重要です。
【スタンダード料金】7,000〜10,000円 カーブシザー・ブレンダー・バリカン&アタッチメントでスピーディに。7,000円なら50分、10,000円なら71分で仕上げる前提。
【エコノミー料金】5,000円 バリカン仕上げ(顔だけハサミ)、シャンプーは自宅で済ませてご来店。被毛に砂が残っていると刃こぼれするのでお断り、という条件付き。所要時間36分。一見薄情に見えますが、QBハウスに行列ができるのと同じ需要が確実に存在します。
【スーパーエコノミー料金】1,400円 爪・耳・肛門腺のベーシック3点セットを10分で。生活防衛意識の高い客層にも合理的に寄り添うメニュー。ただし五月雨式の来店だと現場がバタつくので、予約制にしてまとめて捌くと生産性が上がります。
メニューを選ぶのはお客様自身ですから、料金への納得度は上がります。サロン側も技術の安売りを回避しやすくなります。レバレートだけを意識すると「デラックス一辺倒」になりかねませんが、客層別個別対応で上手にリセットできれば、客離れを避けつつゲームチェンジできます。
7.動物病院併設サロン・院長先生へ ― 「必需品と嗜好品のメリハリ」というもう一段の視点
ここからは、動物病院併設のトリミング部門を運営されている院長先生にお読みいただきたいパートです。
動物病院本体の診療料金体系を見直す際、私どもは「全メニュー一律値上げは危険」とお伝えしています。それは、診療項目を「生活必需品(日常的なケアや必須予防)」なのか、「高度な医療・選択的サービス(専門性の高い手術やペットドックなど)」なのかで見極め、メリハリをつける必要があるからです。自販機の轍を踏んではいけません。
この見極めは、トリミング部門にもそのまま当てはまります。
必需品的サービス(爪切り、肛門腺、耳掃除、簡易シャンプー)はエコノミー/スーパーエコノミー価格帯に位置づけ、値上げは慎重に、ただし「量と時間の見直し」で実質的なレバレート改善を図ります。きのこの山方式です。
嗜好品的サービス(オールシザーでの作り込み、デザインカット、皮膚被毛の状態に合わせたスペシャルケア)はデラックス価格帯。飼い主が価格以上に「安心感」や「確かな技術」を求めている領域であり、値上げが受け入れられやすい部分です。
さらに、動物病院併設サロンには「医療的根拠を持って提案できる」という独自の強みがあります。皮膚科的所見、シニア期の心臓・関節への配慮、麻酔下グルーミングなど、一般のサロンでは扱いにくい領域は、嗜好品どころか「医療に紐付いた選択的サービス」として、適切に値付けすべき領域です。診療部門との連携設計まで含めて初めて、トリミング部門の値上げは正当性をもって飼い主に説明できるのです。
8.レバレート適正化のもう一つの打ち手 ― オペレーション改善による「実質値上げ」
価格表をいじることだけが値上げではありません。レバレートを上げる方法はもう一つあります。1件あたりの所要時間を短縮することによる、実質的な値上げです。
これは動物病院本体の経営改善でも私どもが繰り返し申し上げていることですが、トリミング部門にも応用できます。
事前WEB問診の徹底。来店前にスマートフォンで犬種・カット履歴・希望・健康状態を入力いただくことで、カウンセリング時間を圧縮します。
予約システムの浸透。当日フリー来店による突発的な混雑を減らし、スタッフの動きを平準化します。スーパーエコノミーのベーシック3点セットも予約制にすると効果的です。
タスクシフト。経験の浅いスタッフが下準備・シャンプー・ドライまでを担い、ベテラントリマーはカット工程に集中する。動物病院併設サロンであれば、看護師・トリマー・獣医師の役割分担まで設計可能です。
これらにより、施術の質を落とさずに時間単価を上げることができます。サービス業における「品質を維持したまま時間単価を上げる」取り組みは、堂々と取り組める形のレバレート改善です。
9.人医の保険診療ですら、値上げが決まっている
なお、参考までに人医の動きをご紹介します。
人間の医療においては、診療報酬改定で、賃上げ分や物価対応分を織り込み、令和8年度で2.41%、令和9年度で3.77%の引き上げが既に決まっています。保険診療という最も価格統制が厳しい領域ですら、これだけ上げざるを得ない経営環境なのです。
自由診療である獣医療、そしてそれに準じるトリミングサービスにおいて、料金体系の見直しを先送りする合理性はもうありません。
10.おわりに ― 不況期こそ、原理原則に立ち返るとき
「便乗値上げのような阿漕な真似はしたくない」「セコいことをしてお客様の信用を失いたくない」というお気持ちは、トリマーさんにも院長先生にも共通する誠実さだと思います。しかし、コスト高騰をサロンやスタッフだけで抱え込むには限界があります。もしも経営難で閉店や規模縮小に追い込まれてしまったら、通い慣れた飼い主様、動物たち、スタッフが最も悲しむ結果となります。不況期こそ格好つけず、「適切な利益確保という商売の原理原則」に立ち返ることをお勧めします。
値上げラッシュのご時世は、ゲームチェンジの絶好のチャンスでもあります。ピンチはチャンス。上手にご繁盛されることをお祈り申し上げます。
【動物病院・併設トリミングサロンの院長先生へ】
本稿で触れた「必需品と嗜好品のメリハリ」「レバレート適正化とオペレーション改善」を、診療部門に応用した詳細版を弊社HPに掲載しています。診療料金とトリミング料金を一体で見直したいとお考えの院長先生は、併せてご参照ください。
▶ https://fmcf.co.jp/animal-hospital-pricing-strategy-2026/
あなたの会社が100年続きますように・・・
そして、
トリミング業界と動物病院業界がますます繁盛しますように・・・
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株式会社フクノカミ Fukunokami Consulting Inc.
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