グルーミングジャーナル
グルーミングジャーナル : A級トリマーへの道 第25回日下部守利さん
タイトル:
A級トリマーへの道 第25回日下部守利さん犬の仕事をしたいと思わせてくれたのは、愛犬の存在だったという日下部さん。
アパレル業界からトリマーへ転身し、A級ライセンスを目指す中で見えてきたものをお聞きした。
異業種からのチャレンジ
トリマーにとって犬との出会いは大きな転機につながることがある。現在、北海道愛犬美容学園で教鞭をとる日下部さんが、トリマーの世界に入ったきっかけも一頭の犬を家族に迎えたことだった。
「僕は高校卒業後、すぐにこの世界に入ったわけではないんです。25歳まではアパレル関係の仕事をしていましたが、そのときに初めて犬を飼うことになって、何か犬に関わる仕事がしたいと思うようになりました。それまで美的センスを問われるアパレルの仕事をしていたこともあり、ドッグトレーナーや獣医師ではなく、トリミングという仕事に興味を持ちました」
日下部さんの愛犬はフラットコーテッド・レトリーバー。それが犬と関わる初めての体験だったという日下部さんは、一年後には仕事を辞めてトリマーの学校への入学を決めた。その学校が今も講師を務める北海道愛犬美容学園だった。
「入学前から一般的に男性トリマーが少ないことは気になっていましたが、学生の年齢層が幅広く、男子学生も比較的多かったこともあり、北海道愛犬美容学園に入学しました。恥ずかしい話ですが、入学当初はトリミング犬種とそうでない犬種の違いもわからず、自分の飼っているフラットコーテッド・レトリーバーもカットが必要だと思っていたくらいでした。
本当になにも知らない状態からのスタートでしたが、その分勉強は新鮮でいろいろな知識を積極的にとり入れるよう心がけました。その姿勢は教師になった今でも変わらないですね。もともと自分が好きで始めたことなので、学校以外の場でも常に勉強するようにしています」
日下部さんがトリマーとして大切にしているのは、技術だけに留まらない。普段の仕事の中でも、学生には犬への思いやりを忘れないでほしいと考えている。それは、ひとりの飼い主としての視点でもある。
「学生には技術ばかりが先行して、犬のことを考えないトリマーにはならないでほしいと考えています。カットに夢中になると自分の手元やカットの形だけに集中してしまい、1時間も2時間もテーブルに立ってトリミングされている犬の状態が見えなくなってしまいます。保定している手元で犬が暑がっていないか、つらくはないか、常に気を配ることが大切です。
犬に関わる仕事なので、トリミング以外の日常のお世話もきちんとできるようになってほしいですし、自分もそうありたいと思っています」
初めて知ったショー・クリップの面白さ
日下部さんがA級ライセンスを目指すきっかけになったのは、ある先生との出会いだったそうだ。
「最初は学校でB級ライセンスまで取得して、卒業後はショップで働こうと思っていました。でも、2年生になってトイ・プードルを飼い始め、ショー・クリップの勉強をするようになり、その当時学校に週1回指導にいらしていた池田昌弘先生と出会って、ショー・クリップの難しさと面白さをたくさん教えていただきました。それからA級をとりたいと思うようになったのです」
A級ライセンスをとるために、日下部さんが選んだショー・クリップはイングリッシュ・サドル・クリップだった。多くの学生がパピー・クリップからコンチネンタル・クリップにカットチェンジして、ショー・クリップの勉強をする中、日下部さんにとって悩みだったのは、生きたお手本の少なさだった。
「まわりの学生はほとんどコンチネンタル・クリップだったので、自分でカットしたもの以外は本でしかイングリッシュ・サドル・クリップを見ることができませんでした。
そのため、毎週池田先生に自分のカットを見ていただくだけではなく、先生が北海道に来られなくなってからも、カットしたら必ずメールで写真をお送りしてアドバイスをいただいていました」
A級の昇格試験で一度は失敗したものの、2回目の受験で見事合格し念願のA級を取得したという日下部さんは、競技会でも2度本部大会に出場した経験を持つ。残念ながら本部大会での入賞は叶わなかったが、日下部さんは結果に対してはあくまでマイペースだ。
「もちろん受かりたいという気持ちがあれば、競技会や試験の結果は心配ですし、落ちればショックもあると思いますが、A級ライセンスは取得する前の勉強と取得した後の努力が大事だと考えています。ですから不合格でも僕自身はあまり意識していなかったです。自分が勉強していく中で、早くとらなければという焦りはありませんでした。結果を全く気にするなとはいいませんが、一回の失敗で落ち込んで断念することはないと思いますよ」
ライセンスを目指す中で得られるもの
日下部さんは自分自身がショー・クリップを学んだ経験から、A級ライセンスへのチャレンジを多くの人に推奨したいという。
「僕は学校の仕事がすごく好きなので、競技会やドッグ・ショーに挑戦しながら、これからも教師としてやっていきたいと考えています。その中で、A級ライセンスを目指す人を増やしたいという思いがあります。
ショー・クリップを学ぶ中で身につくことはすごく大事なことで、それはペット・カットでも活きてくると思います。もっとたくさんの人にチャレンジして、技術を磨いてほしいと思います。
犬の仕事をしていく上で、上級のライセンスにチャレンジすることは、大きな意味があると思います。A級ライセンスだけに限らず、ハンドラーのライセンスなども、犬の扱いを学ぶとてもよい機会です。学生たちにもライセンスを目指すことで得られる知識や技術の大切さをわかってもらえたらと思います」
自らも競技会やドッグ・ショーへの挑戦を続けていきたいという日下部さん。結果はどうあれチャレンジすることに意味があるということを身を持って実感しているからこそ、指導者として学ぶことの大切さを学生に伝えていけるのではないだろうか。今後も学生たちの目標として、更なる飛躍が期待される。
キャプション:
1:多くのトリマーがコンチネンタル・クリップでA級ライセンスに挑戦する中、日下部さんにはイングリッシュ・サドル・クリップへのこだわりがあったそうだ。
2:日下部守利さん
北海道愛犬美容学園で技術指導を担当。現在もトリミング競技会やドッグ・ショーにチャレンジ中。
3:現在もドッグ・ショーに出陳し、技術を磨き続けている。
4:2009年のショーにて。
5:トリミング競技会での一枚。
6:学生たちへは技術だけではなく、犬への気遣いを忘れないよう指導しているのだそう。
日下部さんに質問
Qトリミング歴は何年ですか?
A7年目です。A級をとってからは1年半くらいです。
Qお客様にいわれて嬉しかった一言は?
A僕になら愛犬を預けても安心だといわれると嬉しいですね。
Qストレス解消法は?
A僕はストレスをそんなに感じないタイプみたいで……、解消するほどたまったことがないです!
Q得意なカットは?
A自分の中ではイングリッシュ・サドル・クリップです。
Q幸せを感じる瞬間は?
A犬を運動させているとき。犬が外で走りまわっている姿を見ていると幸せを感じます。
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